ここで言う書面語とは単に書き言葉、程度の意味。飯田先生の『広東語の世界』*1を読んでいたところ、飯田先生は中国語の文章を広東語の音で読んでいらっしゃるということを知った。
本書では現在もその言語(方言)の音で文章語を読むという文化が残っているのは、官話と広東語だけではないか、ということも書かれていた。確かにその通りだと思う。現在は台語で書かれた小説などもあるが、それはあくまでも口語の台語を基にした文章語で書かれた小説であり、中国語の書面語を台語の発音で読んでいるわけではない。
同様に、客家語についても、現在は主として口語として使用されており、書かれた文章を客家語の音で読んでいるという客家人は、まったくいない、とは言えないとしても、かなりの少数にとどまると思われる。
しかしそれは、読めないという意味ではない。
原則として、漢字が存在していれば、それに対応する読みというのは、客家語にも閩南語*2にも存在している(はずである)。
そこで、飯田先生の本を読みおえてから、目にした中国語の文章をなるべく客家語の発音で読み、PCでの入力も客家語のIMEを使用して入力してみている。
発音が分からない文字は都度調べている。基本的には萌典*3と教育部臺灣客語辭典*4を利用しているのだが、意外と掲載されていない文字がある。
特に、官話では頻繁に使用されるものの、口語としての客家語ではまず使用されない漢字(很、些、讓、臉、などなど)が採録されていないのである。
そんなときに役に立ったのが「客家話字音典」*5だった。この辞典には客家語(四県方言と海陸方言)での漢字の読み方がひたすら記載されいている。意味は一切載っていない。
もともと本書は間違えて購入したものだった。もともと、「客家話辞典」*6を注文しようと思っていたところ、名前が非常に似ていたので間違えてネット注文してしまったのである。
漢字の読み方だけが載っている字書なので、正直持てあましていたのだが、ここにきて非常に役に立っている。むしろ、基本的な客家語の語彙は上記のネット辞典でも調べられるため、こちらの字典を買って正解だったような気もする。辞典のほうも早いうちに手に入れようとは思っているが。
客家語で文章語を読むなどという、現在ほとんど誰もやっていないことをやって何の意味があるのか、という意見もあるかもしれないが、それを言ってしまえば客家人でもないのに客家語を勉強しているのも五十歩百歩である。やりたいからやる。それだけである。
ちなみに、上で挙げた漢字の客家語(四県方言)での読みは以下の通り。
很……henˋ、些……xiaˊ、讓……ngiong、臉……liamˋ。