Otoyadiary

語学の話題がうっすら多めの日記

声調言語をどう覚えるか問題、並びに似た言語の同時学習は混ざるのか

台語*1客家語*2の話。私がある程度しっかり学習した(あるいは、している)声調言語としては、官話*3、広東語、客家語、台語がある。ほんの少し触った言語も含めれば、ビルマ語、彝語、チベット語などもあるのだが、ここでは措いておく。

こんなに声調言語と関わっておいて今さらなのだが、私は声調を覚えるのが苦手だ。官話を勉強していても、文字の読みのうち、声母、韻母はすぐに覚えられるのだが、声調についてはしょっちゅう間違えるし、覚えているはずの単語でも文中に出て来ると思いっきり声調を間違って読むこともある。

ただまあ、人の話を聞く分にはなぜかちゃんと理解できるし、今までそこまでコミュニケーションに問題があったことはないので、それなりにやっている。ただ、だいぶ昔に電話口で電話番号を伝えねばならなかった際、(èr)をérと言ってしまい、「はー?」と言われたことはよく覚えている。érではになってしまう。さすがにそれでは伝わらない。


それはそれとして、自分が声調を覚えるのが苦手だという自覚はあるので、声調には特に注意して勉強している。

Ankiを使って様々な言語のメンテナンスをしているということは前回書いたが、復習をする際、多くの言語は口頭でやっている。カードの表を見て、その言語を発音し、日本語の意味を言う。カードを裏返して合っているか確認をする、という手順だ。

ただ、台語と客家語は原則として、おもて面の漢字を見て、ノートにローマ字で読みを書き、それを確認する、という手順を取っている。

台語の書き取り
台語の書き取り

字が汚くて申し訳ないがこんな感じだ。この理由として、台語は声調が8種類と多く、また連続変調によって声調がかなり規則的に変わる、ということがある。そのため、口頭で発音しているだけでは、第1声(高平調)なのか第7声(中平調)なのかが曖昧になったり、第1声が変調して第7声になった字なのか、第5声(上昇調)が変調して第7声になった字なのかなどが曖昧になってしまう。

そのため、いちいちローマ字表記で書き、音を手と目と口の全てを使って覚えるように心がけている。

ちなみに文字表記は白話字ではなく教育部の臺羅拼音を使っているが、その理由はまたそのうち書くかもしれない。


ここから、似た言語の同時学習をすることで、学習言語同士が混ざることはあるか、という話に移る。

結論から言うと、たまに混線することはあるが、まめな確認と学習の継続でねじ伏せられる範囲なので、以下の二つの条件を満たすことが可能ならば、系統的に類似した言語の同時学習はメリットの方が大きい、という結論になる。

その条件とは、それぞれの言語の学習に十分な時間がとれることと、それぞれの言語を学習するモチベーションがきちんとあることである。当たり前の話だが、例えば台語にしか興味がないのなら、わざわざ客家語も合わせて勉強するメリットは小さい。


上で、台語と客家語はAnkiを回す際にノートに書いている、という話をした。実は客家語については、台語の学習を始めるまではノートに書いてはいなかった。他の言語同様、そらで発音し、意味を確認する、という方法で回していた。

しかし、台語を勉強し始めてから、しばしば台語の声調で客家語の字を読んでしまったり、単語単位でうっかり台語で読んでしまう、という現象が発生するようになった。官話のカードをめくっている時にはまず発生しない現象なので、客家語が官話ほど頭に定着していない段階で台語の学習を始めたのが原因だと思う。

そこで、客家語についてもノートに書くようにし始めた。もちろん復習にかかる時間は長くなる。ただ、この対処によって客家語の文字を台語で書いてしまう事例は激減した。例外として、疑問文の文末の無は台湾語では客家語ではmoˇと読むのだが、これをそれぞれ取り違えることはたまにある。だいだい書いている途中で気付くけれど*4

客家語の書き取り
客家語の書き取り

系統的に似た言語を複数学習することの利点として、類似点と相違点に注目して覚えられる、という点がある。類似点というのは至って簡単な話で、文法事項が似ている部分や、単語が似ていたり同じだったりする部分は、「同じ」と覚えればよいので非常に記憶が楽だ。この辺はペルシア語とクルド語の関係などでも言える。

中国語の言語変種間の関係では、同じ文字の発音は、一定程度規則的に違っていることが多い。官話で高平調の字は、台語でも高平調のことが多く、客家語では上昇調のことが多い、のような類似点だ。頭の中で変換作業が必要なので即時性はないが、音を覚えるときに手がかりになる。

相違点に着目する、というのは、その逆だ。上に書いた声調の関係性は文字によってはもちろん例外もある。この文字は対応関係の例外だったな、と覚えることで、文字単独で覚えるよりも記憶にしっかり定着するように思える。複数言語を学習していることで、覚えたり思い出すためのフックが増える、という感じだ。


もちろん、いくつもの言語を勉強するのは時間がかかるので、一つの言語だけを勉強したほうが上達が早いのは確かだ。一方で、同時並行することで、ある言語を勉強している時に別の言語の知識を流用できるようになるため、二つの言語の学習にかかる時間は2倍までには増えず、1.7倍くらいの時間で勉強できるようになる、ということはあるように思える。

*1:台湾で話されている閩南語の一種に非常によく似た言語(台湾語、閩南語、台語など、立場によって様々に呼ばれる)をどう呼ぶか、というのは非常に政治的な問題なのだが、このブログでは基本的に台語と呼称する。

*2:こちらも台語とは違う意味でややこしい。客家語言語変種が多く、一応広東省梅県の言語が客家語の中で権威的だ、という話もあるものの、共通語というほどの権威性はない。このブログ内で特に言語変種に言及せず「客家語」と書かれている場合、原則として台湾の四縣方言を指す。

*3:一般的に言うところの中国語。ただ、中国語と言った場合、官話、粤語、閩語、客家語など、すべての下位方言を含んだ言語グループとの書き分けが難しいため、特に他の言語変種と区別して書く必要がある場合、中国大陸では普通話、台湾では国語ないし華語と呼ばれる中国語の言語変種のことを、英語のmandarinの訳語を使い、官話と書く。

*4:ちょうど上の写真の下から2行目に、一度môと書いたあとに直している形跡がある。